Roland SC-88Proの修理:電解コンデンサ交換

1.概要

本ページでは、RolandのGS対応MIDI音源「SC-88Pro」の分解手順・電解コンデンサのリスト・電解コンデンサの交換方法を解説します。また、はんだクラックの修理(2020/5/17追記)についても記述します。

SC-88Proは製造後20年以上経過しているため、劣化した部品の交換が必要です。特にアルミ電解コンデンサは経年劣化しやすく、電解液の漏出によって基板パターンを腐食させることもあり、修理が大変になります。故障を予防するためにも、電解コンデンサを交換することをお勧めします。

なお、他の機種については以下を参照して下さい。

2.分解

メイン基板

作業前にコンセントから電源プラグを抜きます。プラスドライバー(2番)で、側面4カ所・背面3カ所のネジを取り、パネルを開けます。


パネルを開けると、メイン基板(名称:MAIN BOARD)が見えます。クリップのような部品を外し、基板を直接固定しているネジを3カ所、背面のネジを4カ所取ると、メイン基板を持ち上げられます。持ち上げる際は、ハーネスを傷めないように注意します。

基板に接続されているコネクタ類を外していきます。

オレンジ色のコネクタ(JAE IL-Sシリーズ)の抜き取りには、エンジニア SS-10が便利です。無ければプライヤーで代用します。かなり固いですが、じわじわと引っ張れば外れます。やむを得ずこじる場合は慎重にやります。外す際の反動でコネクタやハーネスを傷めないように、力のかけ方を調整します。
※コネクタ類は生産中止なので、壊さないように作業をします。抜き差しの回数を極力減らしたい所です。

また、白いコネクタ(Molex 52328-1410)は、ロックを先細のペンチなどで押し上げることで、フラットケーブルを外せます。


メイン基板のネジ穴にスペーサーを付け、机上に直接触れないようにします。静電マットがあればその上に置きます。また、はんだ作業前にボタン電池(CR2032)を取り外します。ボタン電池は液漏れしやすいので、作業後に新品に交換します。

アナログ基板

メイン基板を外すと、アナログ基板(名称:ANALOG & POWER SUPPLY BOARD)が見えます。アナログ基板上のコネクタを外し、基板を固定しているネジを5カ所と、背面のネジを4カ所取ります。これでアナログ基板の取り外しができます。

アナログ基板のネジ穴には、上下に長めのスペーサーを付けると良いです。裏返しに出来るので作業性が向上します。写真では50mmのスペーサー(オスメス)を取り付けています。

3.電解コンデンサの選定

同型に交換できれば良いですが、入手性が悪かったり製造中止だったりします。そこで代替品を選定しました。選定の基準は次の通りです。

  • Digi-Keyで入手可能
  • 同形状、同耐圧、同容量
  • 105℃品
  • 平滑用のC125-127は、交換前と同等以上の許容リプル電流(@120Hz)を持つもの
基板名 メーカ標準部品 交換用部品 個数 容量 耐圧 外径φD 高さL
メーカ 型式 メーカ 型式 [μF] [V] [mm] [mm]
メイン 三洋電機(サン電子工業) 16CE10BS ニチコン UWT1C100MCL1GB 6 10 16 4 5.4
メイン 三洋電機(サン電子工業) 16CE100BS ニチコン UWT1C101MCL1GB 2 100 16 6.3 5.4
アナログ 松下電器産業(パナソニック) ECA1HM010 日本ケミコン EKMG500ELL1R0ME11D 1 1 50 5 11
アナログ 松下電器産業(パナソニック) ECA1CM330 ニチコン UKT1C330MDD 29 33 16 5 11
アナログ 松下電器産業(パナソニック) ECA1CM101 日本ケミコン EKMG160ELL101ME11D 10 100 16 5 11
アナログ 松下電器産業(パナソニック) ECA1EM102 ルビコン 25YXJ1000M10X20 2 1000 25 10 20
アナログ 松下電器産業(パナソニック) ECA1CM332 日本ケミコン EKYB160ELL332MK25S 1 3300 16 12.5 25

電解コンデンサの詳細なリストはこちら(Googleスプレッドシート)。「ファイル」→「ダウンロード」 でダウンロードできます。

また、Digi-Keyのカート(1台分)はこちら

※2021/7月現在、世界的な電子部品不足により、通販サイトに在庫がない場合があります。ご了承下さい。ご自身で代替品を選定する際は、「低インピーダンス」と記載のあるものを避けた方が良いと思います。特に三端子レギュレータ周辺のコンデンサを低インピーダンス品にすると、電源が発振して故障を引き起こすかもしれません。

4.電解コンデンサの交換

メイン基板

メイン基板の電解コンデンサは8個あり、全て表面実装品です。はんだごてを2本使用し、両側のランドを加熱すると簡単に外れます。ホットツイーザーヒートガン(ホットエア)を使う手もあります。液漏れが進んで端子が腐食している場合は、はんだを溶かすのが難しいため、ニッパーでコンデンサを割る方法があるようです。(参考→Roland SC-88の補修(古典コンピュータ愛好会), 表面実装コンデンサーの交換作業風景)。

面実装の電解コンデンサは、基板上の-(マイナス)マーク側を負極にして実装します。古いはんだを吸い取り、両方のランドにはんだを少し盛ります。片方のランドをコテで加熱しながら、ピンセットで電解コンデンサを載せます。最後にもう片方のランドを加熱し、はんだ付けして終わりです。なお、はんだは「鉛入りはんだ」を使います。

アナログ基板

アナログ基板の電解コンデンサは43個あり、全てラジアルリード品です。裏面のはんだを吸い取りコンデンサを引き抜く、という作業を地道にやる必要があります。めんどくさいよ~~~

電解コンデンサの引き抜きには注意が必要です。写真のように、リードは直線状ではなく、取付後に曲げられています(→クリンチ実装)。この状態で引き抜くとランドを破壊します。さらに、リードとランドの隙間のはんだが除去できず、うまく抜けない場合があります。そこで、1.リードをコテで熱しながら押して穴中心に移動させる、2.リードをペンチで真っ直ぐにする、3.コンデンサを抜く、とします。あらかじめ、部品を差し込む側のリードを、ニッパーで切っておくのも一つの手です。

なお、この基板のランドは熱で剥がれやすいです(スルーホールにメッキが無く機械的強度が弱い)。コテは320℃ぐらいの低温に設定し、ランドに直接当てないようにします。

また、比較的大きなC125, C126, C127には接着剤が塗布されているので、剥がします。ヒートガンで温めると柔らかくなり、ペンチで摘まんで剥がしやすくなります。あまり高温にすると焦げます。アルコールやアセトンでは取れませんでした。
※接着剤の目的は、輸送時の振動による破損防止だと思います。輸送の予定があるなら、コンデンサ交換後にグルーガンなどで固定すれば良いでしょう。

取り外した後は、交換品を挿入してはんだ付けします。基板上の●マーク側を負極にして実装します。ただし外径5mmのものは、リード間隔(2mm)と基板の穴間隔(5mm)が合いません。無理矢理差し込むと電解コンデンサや基板に力が掛かるので、写真のように曲げ加工しておくのがベストでしょう。
※入手できるのなら、リードフォーミング品を使えば良いです。例えばこれとか


最後に念のため、耐圧・容量と極性をチェックします。ここでミスが判明しても、電源投入前であればまだリカバリーが効きます。

5.はんだクラックの修理(2020/5/17追記)

SC-88Proのはんだ付け部を拡大すると、はんだが割れていることがあります(はんだクラック)。はんだクラックが生じると、導通不良により誤動作や事故の原因となるので、見つけ次第修理します。

修理方法は、1.古いはんだを取り除く 2.再度はんだ付けする でOKです。

筆者はSC-88Proを通算7台分解しましたが、以下にはんだクラックが生じやすいようです。古い機器なので、全箇所をはんだ付けし直すのも一つの方法かも。

  • 力のかかる部品→RCAコネクタ、基板間のコネクタ
  • 発熱しやすい部品→三端子レギュレータ周り

6.組み立て・動作確認

組み立ては、「2.分解」と逆の手順を踏めばOKです。ハーネスに過度な力を掛けたり、ネジを締めすぎたりしないように注意します。

全ての基板とハーネスを組み付けたら、電源オンです。変な音や匂いがしないことをチェックし、動作確認に移ります。

動作確認の方法は、テストモードを使います。SC-88Proにはいくつかのテストモードが用意されていますが、ひとまず”Memory Test”を実施します。(参考→SC-88Proのテストモード(Synthesized Malfunction))

Memory Testの手順は次の通り。

  • 「KEY SHIFT<」「KEY SHIFT>」を同時に押しながら電源投入
  • 起動ロゴが流れている間に「PREVIEW」を押しテストモードに入る(画面が暗転)
  • 「KEY SHIFT<」を押しながら「PART>」を押下

数秒後、画面に「OK」または「NG」が表示されます。

問題が生じた場合は、以下を確認します。

  • メイン基板に、はんだくずのような導電性のゴミが付着していないか
  • メイン基板の部品が割れていたり、はんだクラックはないか
  • コネクタの抜けや、ケーブル類の断線はないか

7.音の比較

電解コンデンサ交換前と交換後の演奏を録音しました。Windows付属のflourish.mid(C:\Windows\Media\)を鳴らしています。同一個体を使用し、電解コンデンサ以外は同条件です。

交換前

交換後

出音の傾向も変わらず、「The ハチプロの音」って感じで良いですね。劣化部品を修理しつつ、大事に使いたいと思います。

8.参考資料

(付録) 使用工具・機材一覧

コメント

  1. […] Roland SC-88Proの修理:電解コンデンサ交換 | ごはんたべよ : 修理に当たって、こちらのブログを参考にさせていただきました。 […]

  2. […] Roland SC-88Proの修理:電解コンデンサ交換RolandのMIDI音源「SC-88Pro」を分解し、電解コンデンサを交換しました。作業記録を残しておきます。修理の参考になればと思います。www.keshikan.net […]

  3. […] 既に非常に有益な情報を公開頂いている「ごはんたべよ」様のサイトを参考に、自身なりに解釈し、コンデンサやら工具等を用意しました。 […]

  4. ヤマハ経験者 より:

    幼児科から高校までヤマハ習ってた者です。うわー!自分では修理できないですよ。色々必要になるのですね。僕はSC-88Proは音が良くないので、SC-8850に出会い、本当に圧倒的な音の良さに魅力されまして、ステレオサンプリング音色に色々夢中です。僕の愛用機器は、8850。何といっても高音質です。

  5. 匿名 より:

    SC8850と違ってこちらは特にサン電子品が流通在庫をかき集めてくれる業者経由なので割高ですが、何とかオリジナルで交換できました。国内の信頼できる業者なので高くてもよければギリ何とかなりそうです。

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